研究課題
基盤研究(C)
1989年以降、わが国では3000例を超える生体肝移植が行われてきたが、脳死ドナーの不足や技術の向上により、成人間での移植数が近年急増するようになった。兄弟間や子供から親へと臓器が提供される成人間の移植では、ドナー決定の過程でさまざまな葛藤や家族間の軋轢の生じることが推測される。そこで本研究は、成人間生体肝移植におけるドナーの意思決定過程を質的に検討し、概念モデルとして構築することを目的とした。京都大学医学部付属病院にて生体肝移植のドナーとなった22名(男性15名、女性7名、平均37.9±10.1(SD)歳)を対象に、個別の半構造化面接(平均48分)を行い、手術を迎えるまでの心理的な経験について尋ねた。面接の内容は文書による了承を得た上で録音、逐語録を作成し、Grounded Theoryに基づき質的分析を行った。臓器提供へとドナーを動機づける「これしかない」という現状認識を中心に、5段階からなる意思決定モデルを構築した(1)認知(「これしかない」と認知する)、(2)消化(不安や葛藤を経験しつつ現状を消化する)、(3)決意(臓器提供を決意する)、(4)強化(決意を肯定、維持、強化する)、(5)覚悟(手術を受けることを覚悟する)。第2段階と第3段階は、「心を決める局面」、第4段階と第5段階は「移植に向かう局面」として説明することができた。困難な意思決定に直面するドナーの心を理解し、効果的なサポートを提供しようとする医療者にとって、本研究が提示する概念モデルは実践的に役立つものとなるだろう。移植医療における心理・社会的サポート体制を充実させていくことは、今後も増え続けるであろう当該医療の質の向上につながっていくと考えられる。
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