下記の自己免疫性甲状腺疾患における疑問に答え得る仮説「甲状腺ホルモンがTh1を抑制し、Th2を刺激する」について検討した。この仮説通りであれば、「バセドウ病患者において治療により甲状腺機能が正常化するとTSHレセプター抗体価が低下する現象」については、「甲状腺機能正常化→Th2刺激の抑制→Bリンパ球刺激の抑制→TSHレセプター抗体産生低下」で説明でき、「破壊性甲状腺中毒症において破壊の期間が3ヶ月以内である現象」については、「破壊性甲状腺中毒症により甲状腺ホルモン上昇→Th1の抑制→細胞傷害性リンパ球刺激の抑制→甲状腺破壊の抑制→破壊が一過性で終結」で説明できる。(1)全血を甲状腺ホルモン(T3)存在下で培養し、Invader RNA AssayでIFN-γ、IL-4のRNA量を測定したところ、T3存在下でIFN-γがわずかに、IL-4が軽度増加した。(2)末梢血単核球をT3存在下で培養し、サイトカイン発現量をTaqMan Cytokine Gene Expression Plate Iで4検体について検討したが、検体ごとに結果が異なり、結論を導くことはできなかった。(3)全血をT3存在下でPHAと共に培養し、上清中のIL-4量をELISAで測定したが、T3によりIL-4産生量に有意な変化はみられなかった。(4)末梢血単核球をT3存在下でPHAと共に培養し、IFN-γ、IL-4産生細胞をELISPOTで測定したところ、T3によりIFN-γ産生細胞がわずかに増加し、IL-4産生細胞はわずかに減少した。以上、甲状腺ホルモンによるリンパ球サイトカインのRNA量の変化を調べた2種類の検討、蛋白量の変化を調べた2種類の検討を総合的に判断すると、甲状腺ホルモンによりリンパ球サイトカイン産生に一定の明らかな変化は認めないという結論に至った。
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