研究概要 |
1.マルチプレックスPCR法およびマイクロチップ電気泳動法を用いたY染色体欠失解析システムの開発 男性不妊症において無精子症は重要な原因の一つであり、Y染色体の無精子症候補領域(AZFa, b, c)の欠失が報告されている。これまで我々は、Y染色体上に存在する9遺伝子座位について、個々のPCR反応により欠失解析を行っていたが、多大な時間と労力を要するため、マルチプレックスPCR法の検討を行ってきた。今年度は、さらに効率的に解析するための新しいプライマーセットを作製し、マイクロチップ電気泳動法を用いたY染色体欠失解析システムの開発を行った。この新プライマーセットを使用し、最適条件でマルチプレックスPCR反応を行うと、PCR増幅産物は、アガロース電気泳動法において6座位のバンドが明瞭に分離できた。さらに、マイクロチップ電気泳動装置を使用すると短時間での検出が可能であり、アガロース電気泳動のバンドに相当するサイズのピークが確認できた。また、無精子症患者検体を解析したところ、個々のPCR反応で行った結果と差異は認められなかった。よって、本法は男性不妊患者のY染色体欠失を効率的に解析するシステムとして有用であることが示唆された。 2.ヒトY染色体上の無精子症候補領域に存在するHSFYの分子遺伝学的解析 HSFYはY染色体上に最近マップされたが、その機能や疾患との関連については明らかとなっていない。そこで、HSFYとヒト無精子症との関連、およびHSFYの機能を明らかにする目的で研究を行った。無精子症患者57名中2名にHSFYを含むY染色体の欠失を見出した。次にHSFYの発現について検索を行ったところ、この遺伝子は精巣で特異的にタンパク質として発現していることが判明した。無精子症患者の精巣組織では、健常コントロールに比べてHSFYの発現が著明に低下していた。HSFYはAZFb領域に存在すること、およびその分子生物学的な特徴から考えてヒトの精子形成に何らかの役割を担っていることが示唆された。
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