研究課題
我々は生体内に存在するADMAがNO産生の内因性阻害剤として働き、これを代表する酵素であるDDAHがNO産生制御系の鍵酵素になるという新説を導きだした。この事実から、動脈硬化症をはじめとするNO産生障害が原因となる病態の発症・進展のメカニズムを明らかにし、新しい予防・治療の概念を産み出すためにも生体内のADMA動態を詳細に評価しうるシステムの構築が重要な課題であると考えられる。このような観点に立って、本研究においては、ADMAの特異的かつ微量測定できる定量法の開発を行った。当初の計画において二つのシステムの開発をスタートさせた。一つは、DDAHの酵素反応を利用したシステム(システム1)であり、他の一つはADMAに対するモノクローナル抗体を作製して、これを利用した阻害ELISAによる定量法(システム2)を確立することである。平成15,16年度において、システム2はほぼ完成し、スタンダードアッセイ系としては確立できた。本年度は生体材料を用いた時の有効性の検討ならびに実用化に向けた基礎実験を行った。まず、最初に血液サンプルの前処理方法を検討した。本開発キットにおいて、測定感度を上げるためには、検体中のADMAのMBSアシル誘導体化が必要であるが、検体中にタンパク質が含まれるとADMAのMBSアシル誘導体化効率が悪くなり、結果的に測定妨害の原因となる。しかし、この問題点は血漿サンプルを限外濾過することにより解消され、本処理段階における回収率も平均して95%を得た。次いで、本測定系の信頼性について検討した。従来より用いられてきたHPLCによる測定結果との相関性はきわめて高く(r=0.98)、その正確性が証明された。また、使用サンプル量として血漿1μlは十分量であり、本法を検査・診断方法として臨床現場にて応用する際にこの点が有効に働くものと考えられる。動物実験やヒト試験において、動脈硬化症の前段階である高血圧、糖尿病、高コレステロール血症状態には血漿ADMA濃度の上昇が観察されている。しかし、ヒト試験例数の少なさから、血漿ADMA濃度をこれら病態の診断基準に加える試みは未だなされていない。本測定キットの開発はヒト試験を容易に行える点において、動脈硬化症の新しい診断基準の導入、さらには新しい予防・治療法の開発へ貢献できるものと考える。
すべて 2005
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