研究概要 |
単球の泡沫化に役割を果たす遺伝子LIG(LDL-inducible gene)は単球泡沫化に役割を果たす。LIGを使用して粥状動脈硬化巣の安定化の早期診断が可能かの基礎検討をおこなった。動脈硬化巣ではLIGの遺伝子は泡沫細細胞で発現が確認された。LIGのアミノ酸配列を家兎に免疫してLIG特異抗体を作成した。このLIG抗体を使用して、ヒト単球由来のTHP-1細胞のLIGの蛋白発現が確認された。また、我々の作成したLIG抗体、各種のモノクローナル抗体を使用した組織染色により、さまざまな病期のヒト動脈硬化巣において、細胞死の少ない領域の泡沫細胞でのLIGの発現が認められた。近年、細胞死調節蛋白の細胞内における代謝と蛋白のユビキチン化の解明が進んでいる。LIGはユビキチン関連蛋白(E2)として知られているHuntingtin interacting protein (HIP)-2のhuman homologueであることがわかっている。THP-1細胞のLIGの発現はhypoxiaで誘導される細胞死にともない低下した。また、LIG抗体を使用した免疫沈降法をおこなったところ、LIGとapoE、IKB,p53といった単球由来分子と相互作用を示すことがわかった。これらのことから、動脈硬化巣中のLIGは細胞死抑制蛋白の異化を促すことで泡沫細胞を細胞死から回避させて粥状硬化巣の安定化に関わる可能性が高い。他方、急速なLIGの抑制による広範囲の細胞死の誘導は動脈硬化巣の不安定化をきたす可能性がある。このように、動脈硬化組織における泡沫細胞中のLIGは、粥状硬化の進展退縮の指標として評価できる。今回の研究成果は、動脈硬化巣の病理所見と密接に関連する血中因子の一つとしてLIGが病勢把握に利用できる方向性を示すものであり、今後の成果が期待される。
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