研究概要 |
鉛、PCB、メチル水銀、カドミウム、有機溶剤等による非顕性健康影響として、中枢神経機能(鉛・有機溶剤、メチル水銀)や血液生化学データ(PCB,カドミウム)への影響を調べ、環境有害因子の非顕性の健康影響を引き起こす臨界濃度(BMD)を算出することを目的とした。今年度は、貧血およびデルタアミノレブリン酸ALAに及ぼす鉛影響、聴性脳幹誘発電位に及ぼすメチル水銀影響、有機溶剤の自律神経系(心拍変動係数)、慢性飲酒(エタノール)の肝機能に及ぼす影響について調べ、その一部を論文として報告した。 男性鉛作業者186名(血中鉛濃度2.1〜62.9μg/dl)のデルタアミノレブリン酸脱水酵素(ALA-D)活性は血中鉛濃度の増加に伴い活性レベルが低下し、この影響が現れ始める血中濃度(benchmark doseの95%信頼下限値、BMDL)は2〜3μg/dl付近と推定した。また、血漿、血中および尿中ALA濃度は血中鉛濃度が約45μg/dlを超えるとバラツキが急激に大きくなることから、その濃度付近からALA合成酵素(ALA-S)の急激な活性亢進が始まる可能性について示唆するとともに、このALA-Sの影響を避けるために血中鉛濃度45μg/dl以下の鉛作業者のみで解析し、ALAの増加し始める濃度(BMDL)が2.9〜6.8μg/dlであった。 男性鉛作業者388名(血中鉛濃度1〜115、中央値22μg/dl)において、ヘモグロビン(r=-0.240,p<0.001)、赤血球数(r=-0.237,p<0.001)およびヘマトクリット(r=-0.201,p<0.001)が有意な量-依存関係を示し、これらの影響が現れ始める血中鉛濃度(BMDL)を各々19.2μg/dl、19.7μg/dlおよび29.4μg/dlと推定した。 秋田県内の男性販売員3,400名に習慣的飲酒量に関する自記式質問紙を配布し、1,244名から回収した。職域定期健康診断で測定された肝機能(AST、ALT、GGT)とID番号から照合した。100%エタノール換算摂取量(0〜1,366g/週)と肝機能の間には有意な正の関係が見られ、AST、ALT、GGTに対する一週間当たりの飲酒量閾値(BMD)は453g、983g、290gであった。これより、健常日本人男性の肝細胞傷害が現れ始める飲酒量は1日当たり50g前後であると推定された。
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