研究概要 |
本研究では、神経系に作用点をもつ農薬類に曝露する職域集団で生殖機能評価を行った。殺虫剤生産工場に勤務する同意の得られた男性職員54名に自覚症状や子供の性比等についての問診票調査を行い、うち34名に血液中テストステロン、卵黄刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホノモン(LH)、時間加重平均個人曝露量、尿中の殺虫剤および有機溶剤代謝物の測定を行った。6名についてはWHOマニュアルに基づき精液指標を測定した。殺虫剤代謝物である尿中臭化物イオン濃度は、曝露作業者群で有意に高値を示し曝露を反映していた。有機溶剤への曝露濃度はトルエンで2.5〜13.5ppm、酢酸エチルで1.5〜7.3ppmであった他は一般環境と大差なく、混合曝露評価として許容濃度を下回っていた。曝露群,非曝露群との間で子供の有無,男女性比に有意差は認められなかった。また、FSHは曝露の有無に関係なく年齢と有意な正の相関が見られた。精液指標では明らかな異常値を示す者はみられなかったが、参加率が曝露群の11.5%と低く母集団を代表していないと思われた。安全衛生管理が十分行き届いている製造工場の曝露レベルでは、有意な影響が生じている可能性は低いと考えられた。 また,害虫駆除作業で殺虫剤に曝露される作業者集団における生殖機能健康調査では、精液質の調査で作業密度の高い夏季に非曝露対照者集団に比べて運動性の低い精子の割合の有意な上昇を認めたが、他の調査した指標に関しては問題とすべきことが明らかな有意な所見を調査時点では認めなかった。このため,精巣毒性が疑われるジクロルボスをラットに9週間投与したが、運動精子率の有意な、しかし些少な低下が認められたものの、赤血球アセチルコリンエステラーゼ活性が大きく抑制される用量域での変化で、ヒト集団で認められた所見とジクロルボス曝露との因果関係は否定的と考えられた。
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