研究概要 |
わが国における肝がん死亡の90%以上は肝炎ウイルスの持続感染に起因し、そのうちC型肝炎ウイルスの持続感染によるものが8割を占めることが今まで蓄積された血清疫学的・臨床病理学的成績から明らかとなっている。本研究では、現在のわが国におけるC型肝炎ウイルス持続感染者(HCVキャリア)集団がどのくらいの規模で存在し、この集団の病態別人数が(自然経過を経て)将来どのように推移するかについて推計を行うことにより、2002年度から実施に移された肝炎ウイルス検診の有効性について評価したものである。(ただし、本研究で推計を行ったHCVキャリア数には、既に患者として通院あるいは治療を行っているHCVキャリアは含んでいない。すなわち自覚症状がなく社会に潜在していると考えられるHCVキャリア数の推計を行った。) 下記の項目について研究を行い、成果を得た。 1)15年度の推計を行った、わが国における自覚症状の無いまま潜在していると考えられるHCVキャリア数は16歳から69歳までの年齢階級全体で884,954人(95%信頼区間72.5〜104.5万人)、男性では464,363人(37.8〜55.1万人)、女性では420,591人(34.7〜49.4万人)であったが、さらに解析をするとHCVキャリアは男女とも50歳以上の年齢層が64%〜74%を占め、高年齢層に偏在していることが明らかとなった。 2)15年度の調査・解析をもとに構築した、HCVキャリアが自然経過した場合の病態別の年推移率(マルコフモデルを用いて算出した病態推移モデル)と、献血を契機に見出されたHCVキャリアの病態別割合を用いて、上記1で算出した40〜64歳におけるHCVキャリアが1〜20年後に到達する病態別人数を予測し推計を行った。 3)合理的介入(治療)を行った場合の肝がん罹患率を用いて、2と同様に病態別人数を推計し、40〜64歳におけるHCVキャリアが1〜20年後に到達する病態別人数を予測し推計を行った。これを行わなかった場合の成績(前述)と比較することにより、組織的な介入(抗ウイルス療法、肝庇護療法)による肝がん死亡の減少効果を提示した。
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