研究概要 |
【目的】 本助成の初年度ではPerforin Knockout (PKO)マウスを用いて有機リン農薬DDVPがFas ligand/Fas pathwayにも影響を及ぼすことを明らかにした。2年目では有機リン農薬によるPKOマウスのFasL/Fas pathwayへの影響のメカニズムを解明した。さらになぜ、NK活性が最も有機リン農薬に阻害されやすく、LAK活性が最も阻害されにくいのか?また、なぜ有機リン農薬に対してマウスNKとヒトNKの反応性が異なるのかも解明した。3年目では1)有機リン農薬がNK細胞内のperforin, granzyme, granulysinの発現量に影響するかどうか、を検討した。2)動物に有機リンを投与し、そのNK,T細胞の変動を検討した。 【材料と方法】 1)有機リン農薬DDVPでヒトNK細胞株NK-92CI及びNK-92MIをin vitroで15時間処理した後、細胞を回収し、実験に供した。細胞内Perforinの測定はFITC-anti-perforinを、GrAの測定はFITC-anti-GrAを、GRNの測定はrabbit anti-GRN及びPE-anti-rabbit IgGを、NK細胞表面マーカーの測定はPE-anti-CD56を用いてFlow cytometry法で行う。NK活性の測定はchromium release assayを用いる。DDVPによるNK-92CIの脱顆粒はそれぞれの抗体を用いた蛍光抗体法によって観察した。 2)マウスに有機リン農薬DDVPを投与し、Flow cytometry法でマウス脾臓細胞のNK,T,B細胞及びマクロファージの割合を測定した。 【結果と考察】 (1)DDVPは有意にNK-92CI及びNK-92MI細胞の活性を抑制し、NK細胞内のPerforin、GrAおよびGRNのタンパク質量及びmRNAの発現量を低下させた。その機序としてDDVPによるNK細胞の脱顆粒によることが明らかとなった。またNK-92細胞内Perforin、GrAおよびGRNの量の低下がDDVPによるNK活性低下に関与することが示唆された。動物実験ではDDVPは有意にマウス脾臓細胞のNK細胞、CD8及びCD3陽性T細胞の割合を減少させ、B細胞の割合を増加させた。またDDVP投与マウスでは脾臓細胞のCD4陽性T細胞の割合も減少する傾向を示したが、統計学的に有意ではなかった。一方DDVPはマウスのマクロファージの割合には影響を及ぼさなかった。DDVPによるマウスのNK細胞、CD8及びCD3陽性T細胞割合の減少はDDVPによるNK及びCTL活性抑制に寄与したと考えられる。
|