近年、室内空気中の化学物質がその発症原因の一つであると考えられる「シックハウス症候群」や「化学物質過敏症」が社会的な問題となっており、厚生労働省では室内において生活衛生上問題となる各化学物質の濃度指針値の策定を進めている。この指針値は一般住宅のほか、事務所、公共施設、車両など化学物質を製造・使用する工場等を除く大部分の室内に適用されるが、住宅や学校以外の室内については、化学物質による空気汚染の実態がほとんど把握されていない。本研究では高濃度の化学物質による室内空気汚染が予想される車室内に着目し、その汚染実態を明らかにするとともに乗員におけるその経気道吸収量を推定することを目的としている。 通常の使用環境にある一台の乗用車を対象として、夏季に新車として購入後3年間における車室内の空気中化学物質の濃度推移を昨年度までに調査した。納車直後および気温の上昇する夏季における車室内空気は高濃度の化学物質で汚染されていることが明らかとなった。 今年度は、化学物質による車室内空気の汚染実態を把握するため、乗用車を保有する一般住民の協力を得て、5月〜9月の夏季において乗用車101台(夏季に新車として登録後3年未満の全て異なる車種)を対象として、窓・ドアを閉鎖した駐車状態にて車室内の空気中化学物質を捕集した。また、各対象車の使用状況(走行距離、登録からの経過日数など)や車室内環境(内装品の材質など)などもあわせて調べた。現在、捕集した試料の詳細な分析を進め、各乗用車について約150種の化学物質の定量を行っている。 今後、通常の使用環境における乗用車の室内空気汚染の実態を明らかにするとともに、得られた結果を統計学的に解析し、車種、製造会社、使用状況、室内環境などによる車室内化学物質汚染の違いについて考察する。
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