動脈硬化症の進展におよぼす飲酒の影響について、飲酒を含む生活習慣に関するアンケート調査を産業従事者対象に実施した。さらに動脈硬化の危険因子として重要である2型糖尿病患者を対象に同様の調査を行った。アンケート調査と健診結果について統計手法を用いて解析し、飲酒の程度およびアルコール感受性の相違が種々の動脈硬化症のリスク要因にいかに影響をおよぼすかについて検討した。顔面紅潮、皮膚紅潮、動悸の3項目からなるアンケート調査の結果からアルコール感受性を判定した。産業従事者を対象とした調査ではアルコール感受性の強い(すなわちお酒に弱い)群の多量飲酒者(一日平均エタノール30g以上)の収縮期および拡張期血圧は、同群の軽度飲酒者(一日平均エタノール30g未満)および非飲酒者に比べ有意に高かった。一方、アルコール感受性の弱い(すなわちお酒に強い)群の多量飲酒者の収縮期および拡張期血圧は、同群の軽度飲酒者および非飲酒者と比べ差はなかった。アルコール感受性の強い群では飲酒量と血圧との間に有意な相関を認めたが、アルコール感受性の弱い群では有意な相関を認めなかった。飲酒量と血圧との関連性におよぼすアルコール感受性の影響について、上記と同様の結果が2型糖尿病を対象にした調査からも得られた。さらに、血中中性脂肪、HDLコレステロール値、大動脈脈波速度におよぼす飲酒の影響についてはアルコール感受性による差はなく、いずれの群でも多量飲酒者においては軽度飲酒者および非飲酒者に比べ有意に高かった。 既報ではALDH2の多型は飲酒と血圧との関連性に影響を及ぼさないことが、一致して報告されているが、本研究では血圧と飲酒との関連性が飲酒時の症状から判定したアルコール感受性の影響を受け易く、アルコール感受性が高い人が飲酒することにより高血圧を惹起しやすくなることをはじめて証明した。
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