年々増加する国民医療費の3分の一は老人医療費によって占められている。老人医療費の伸びが著しいことから、医療費増加を適正化するうえで、老人医療費抑制は医療制度改革の中心的課題とされている。国民医療費の増加要因には人口の高齢化や医療技術の高度化などの他、長期入院や薬剤・検査の過剰使用も増加要因として指摘されている。特に高齢患者は複数の慢性疾患を有することが多いことから、高齢者以外の患者と比較すると、高齢患者では検査や薬剤の使用が多いと言われている。しかし、頻繁に指摘される医療費増加要因の一つとしての「人口の高齢化」が国民医療費増加にどの程度寄与しているのか、患者の個票データを用いて分析した研究はほとんど報告されていない。 本研究では、先ずマクロ分析として、厚生労働省「社会医療診療行為別調査」を用いて、年齢階級・疾患群別に診療行為(検査や投薬等)実施の違いを比較した。その結果、検査・画像診断・投薬・注射においては、65-69歳で実施回数が最大となり70歳以上で減少していた。医療費も65-74歳をピークに70歳以上で減少傾向にあった。 次にミクロ分析として、入院医療を受けた患者一人一人の個別の入院診療データを用いて、性・年齢階級・疾患群別に医療資源の消費状況を示し、高齢者と非高齢者との間で医療資源消費に違いがあるのかどうか検討した。本年度は、ある医療機関(病床規模約500床)を2年間に退院した患者約2万件の入院医療費を分析した。その結果、70歳以上の高齢患者よりも、40歳から69歳の中年患者の方が、医療費が高くなっていた。また、総医療費積算値における検査画像診断料や投薬注射料の占める割合は、30歳代から80歳代までほぼ同程度であった。以上のことをまとめると、本研究において解析した医療機関においては、高齢患者は非高齢患者よりも検査や投薬が多く、医療費が高いという結果は示されなかった。
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