本研究では、先ずマクロ分析として、厚生労働省大臣官房統計情報部編集「社会医療診療行為別調査報告」(1996〜2003年)を用いて、診療行為大分類(検査、画像診断、投薬、注射など)別にみた診療報酬明細書1枚あたりの請求点数(一件あたり点数)について、疾患別に高齢患者と非高齢患者との間で医療資源の消費に違いがあるかどうか検討した。その結果、総医療費では40歳以降から増加傾向にあるもの(精神・行動障害、尿路生殖器系)や60歳以降から増加しはじめるもの(神経系)等、疾患によってそのパターンは異なっていた。呼吸器系や損傷外傷、眼付属器などは、70歳以降で手術麻酔処置料、入院料が増加傾向にあった。検査画像診断料については、呼吸器系と感染症、損傷外因で、年齢と共に増加傾向にあったが、他の疾患では年齢が異なっていてもその値はおおむね横ばいであった。 次にミクロ分析として、調査協力が得られた医療機関において1996年1月から2000年12月末までの間に退院した全患者を対象に、性・年齢階級・疾患群別に医療資源の消費状況を検討した。その結果、生存退院患者群の医療費総額、薬剤料、検査画像診断料は、各年齢階級間でほぼ似通っていたのに対し、死亡退院患者群では、年齢階級が上がるにつれ、医療費が少なくなる傾向にあった。さらに、主病名の疾患群ごとに医療費総額と年齢との関係を検討したところ、損傷外因の場合のみ、年齢階級が上がるにつれて医療費総額が有意に高額になっていた。一方、消化器系、尿路生殖器系、呼吸器系を主病名とする生存退院患者群では、35-44歳の患者と比べて60歳代で高額となった後、その後は医療費総額が有意に少なくなっていた。 以上の結果から、医療費の年齢間比較を行う場合には、年齢階級間における疾病構造の違いを考慮する必要があることが示唆された。
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