研究概要 |
生活習慣病発症には遺伝要因と生活習慣を含む環境要因が関与しているため、その双方を反映する家族歴は重要なリスク因子となっている。特に小児期に判明するリスク因子では最も重要である。このため家族歴の評価は欠かせないが、ほとんどの研究において、家族の性別や年齢を考慮せず、家族に生活習慣病の既往者があればリスクありとする評価法を用いている。生活習慣病の発症には男女差があり、しかも年齢の指数関数的に高くなるので、これではリスクとしての正しい評価はできない。従来のこの方法の問題点を指摘し、どの程度問題となりうるかを虚血性心疾患を対象として定量的に論じた。このような解析は世界でも初めてのものである。 2316名の男子高校生を対象に健康診断の一環としてアンケート調査を実施した。アンケートは両親に記載を依頼し、両親、祖父母、おじ・おばについて、年齢または死亡年齢、虚血性心疾患既往の有無と既往のある場合はその10歳区分の発症年代を尋ねた。情報の得られた家族24,071人のデータから性・年齢別既往割合を算出し、従属変数を既往割合、独立変数を性、年齢としたロジスティック解析を行った。性差のオッズ比および95%信頼区間は1.611および1.418-1.831で、年齢差のオッズ比および95%信頼区間は1.067および1.063-1.072であった。このことは、同年齢では男は女の1.611倍、また家族の年齢がn歳違えば1.067のn乗倍既往が増えることを意味する。家族の性、年齢を無視すれば、リスクの誤分類や調査対象の選択バイアスが起こり、前者では解析で得られる関連を誤って弱め、後者では関連を誤って強める可能性が高くなる。したがってこのような家族の性、年齢を無視した定性的な家族歴評価は不適切であることが分かった。
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