研究概要 |
ミトコンドリアDNA(mtDNA)に加齢変化があり,特定部位の塩基置換や欠失の増加として観察されることが報告されていた。本研究の目的は,この現象を年齢推定に応用できないかどうか,実験的に検証することであり,病理解剖で得られた臓器試料からDNAを得て,mtDNA分子にみられる加齢変化を定量的に分析している。 これまで,mtDNA・A3243G(mtDNAの3243番目の塩基がAからGへと置換する現象)の変異の増加が一部の臓器で見られることがわかり,また加齢現象として観察される他の現象であるテロメア長の短縮傾向との関連について検討してきた。心室心筋で顕著にmtDNA変異の加齢に伴う増加がみられたほか,テロメア長の短縮がみられる臓器では逆にmtDNAの変異が増加しないなど,テロメア長の短縮とは異なる傾向が臓器ごとに見られた。 4977bpの断片の欠失も加齢現象として報告されており,これについても量的解析をする方法を確立し,各臓器について分析を進めている。 今年度は,特にmtDNAA3243G変異が原因とみられる糖尿病患者の臓器試料についても分析し,変異が臨床症状に及ぼした影響を考察した。調べたのは,2名の女性患者の試料であり,一人は重篤な糖尿病の症状を示し,53歳で死亡している。もう1名は肺炎で死亡した患者であるが,るいそうが著しいものの,糖尿病の症状は軽微であった。病理解剖で得られた臓器についてmtDNAA3243Gの値を分析したが,どちらの患者についてもこの値は非常に高い値を示した。これら二人の臨床症状の差異を考慮すると,ミトコンドリア糖尿病には多様な病態があると結論づけられる。
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