研究概要 |
1.硝酸、亜硝酸は血管拡張剤、肉製品の発色、防腐剤、肥料、火薬等に用いられている。また、最近では亜硝酸塩はドーピング薬物の検知を妨害するために、商品名KlearやWhizziesとして尿に添加された報告がある。亜硝酸は酸化により硝酸となり、還元によりNOラジカルとなる。我々はNOと鉄の親和性が非常に大きいこと、またNOはラジカルであることに着目した。亜硝酸の還元により生成したNOはそのまま放置しておけば水溶液中で種々の物質と反応したり、気体として飛散する。またNOと鉄との反応も水溶液中では安定ではない。従って、鉄とジエチルジチオカルバミン酸との錯体を有機溶媒中に作り、この鉄錯体にNOをトラップし、ESR法により定量した。ESRスペクトルは1.26mTはなれた3本の吸収線からなり、g値は2.040であり、NOラジカルの同定を厳密にすることができる。1試料5分で定量は終了し、大変簡便、迅速な方法である。検出限界は50pg(10^<-12>g)で感度が非常によい。報告されている亜硝酸の種々の検出方法の検出限界は吸光度法、蛍光法、ケミルミネッセンス法でそれぞれ40,10,1ng(10^<-9>g)である。この結果について、2003年の日本法中毒学会で発表し、Anal.Biochem.2004.で報告した。 2.モリブデン(Mo)は周期律表の第6周期の遷移元素の中では生体に必須であることが判明している超微量元素でヒトの体重1Kgあたりの含有量は140ngにすぎない。Mo酵素にはキサンチンオキシダーゼ、ニトロゲナーゼ、ニトロレダクターゼ等の酸化還元酵素が知られている。これらの酵素作用機序の解明や、Moの欠乏、過剰による障害を防ぐためには、微量のMoを定量する方法を開発せねばならない。我々はMoとジエチルジチオカルバミン酸が非常に強く反応し、その反応物は還元により、Mo(+5)の常磁性となることを見い出したので、ESR法で、高感度、迅速に定量する方法の開発を行なった。還元にはシュウ酸が最適であった。Moのジエチルジチオカルバミン酸錯体を還元して生成した常磁性物質のESRスペクトルは線巾が0.3mTの1本線からなり、g値は1.980である。1試料5分で定量は終了し、大変簡便、迅速な方法である。検出限界は50pg(10^<-12>g)で感度が非常によく、ヒトの尿10μL(10^<-6>L)で定量可能である。この結果について2003年の日本微量金属学会で発表し、Anal.Chim.Acta 2004.で報告した(in press)。
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