薬毒物が作用を及ぼす際には作用を受ける物質との間で、電子が授受され、反応中間体として不対電子を持ったラジカルや金属イオンの価数変化が観察される。電子スピン共鳴(ESR)法により、迅速で局感度な定量法を確立したので報告する。 1.ドーピング薬物隠蔽薬Klearは尿中のマリファナやハッシッシの検出を妨害する。この薬からNOラジカルを作成し、ESR法で定量する方法を報告した。この方法はNOラジカル発生型の血管拡張薬の定量にも応用できる。 2.モリブデン(Mo)は生体に必須な超微量元素で、ヒト1kg当たり140ngしか含まれていない。Mo酵素には種々の酸化還元酵素があり、それらの酵素作用の解明、欠乏過剰障害を防ぐには高感度定量法が望まれる。Moとジエチルジチカルバミン酸(DDC)の複合体を作成し、5価に還元し、ESR法で定量する方法を報告した。ヒトの尿10μLで定量可能とした。 3.Urine Luckの商品名を持つpyridinium chlorochromateは成分の6価クロムが尿中の麻薬類tetrahydrocannabinolやopiatesの検出を妨害する。3価クロムにはその作用がない。また、6価クロムは細胞膜を通過し、発ガン作用があり、3価クロムよりも毒性が高いので、両者を区別して定量する方法が望まれていた。我々は6価クロムから還元により、常磁性の5価クロムを安定に作成し、ESR法により、迅速で高感度な定量法を確立した。 4.マンガン中毒により、大脳灰白部が変化し、パーキンソン氏病と似た症状を呈する。スーパーオキシドデイスムターゼはマンガン酵素であり、パラコートや種々の薬物から生じたスーパーオキシドを無毒化する。組織中のマンガン量とパラコート中毒との関連性を見出し、報告した。 5.毒物シアンは体内でチオシアンとなり、無毒化される。既報の発色定量法ではシアンとチオシアンが共に発色してしまう。我々はチオシアンのみが2価の銅と反応する条件を見出し、反応物をラジカルとし、ESR法により、迅速で高感度な定量法を確立した。 6.毒物アジ化ナトリウムは8年程前、飲物に添加される事件が数件発生した。アザイドイオンと2価の銅の反応物をラジカルとし、ESR法により、迅速で高感度な定量法を確立した。
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