研究概要 |
脳死判定に影響を与える可能性のある薬物について,ベンゾジアゼピン系薬物のミダゾラム,ジアゼパム,フルニトラゼパム,抗不整脈薬のベラパミルならびにそれぞれの活性代謝物についてはLC/MSスクリーニングを,抗けいれん薬のフェノバルビタール,全身麻酔剤のプロポフォールはGC/MSスクリーニングを最適化し,脳死薬物スクリーニングとして確立した.筋弛緩剤のベクロニウム,パンクロニウム,スキサメトニウムについてはLC/MSスクリーニングの最適化に問題があり,さらに高感度・高性能な上位機器(LC/MS/MSあるいはLC/TOF/MSなど)を用いた検討が必要と思われた。 救命救急センター(CCMC)に入室した患者のうちイムノアッセイ陽性の24例について,脳死薬物スクリーニングを実施し,一般薬物スクリーニングの他に脳死薬物スクリーニングを実施することが有効であることを確認した.CCMCでミダゾラム持続静注の治療を受けた患者9例の治療停止後のミダゾラムならびにその活性代謝物の血中濃度を測定した結果,ほとんどの症例は治療停止後2日以内に血中濃度は治療濃度以下となった.加えて,トリアゾラムとベラパミル中毒の剖検試料中濃度を測定,トリアゾラムとベラパミル中毒剖検例の体内分布を明らかにした.また,複数のベンゾジアゼピン系薬物中毒(ニトラゼパム,フルニトラゼパム,エチゾラム,トリアゾラム)の剖検例での体内分布を明らかにした.これらの剖検例では中毒以外の死因であったが,血中濃度からはいずれの薬物も死亡時に影響を与えたものと思われた.従来より中毒死剖検例の体内分布については報告が多いが,治療レベルでの死後の薬物体内分布は本法のような微量分析法を用いなければ明確にはし得なかったと考えられる.以上のようにさまざまな試料を用いて多角的に症例検討を行った結果,本研究で確立した脳死薬物スクリーニングは臨床法医中毒学上有用であることが示された.
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