4-ヒドロキシ酪酸(GHB)は、GABAの代謝物として生体では主に脳に存在し、中枢神経系の抑制効果を持つことが知られているが、近年麻薬としての乱用が問題となっている薬物である。死後の生体試料からの薬物分析において、GHBが生前投与されていないにもかかわらず血液、肝臓あるいは尿に高濃度に認められることが近年報告され、我々もまたそれを確認しているが死後産生についての詳細は明らかになっていない。本研究において、死後産生されるGHBのprecursorおよびその産生経路を明らかにする目的で、マウスを用いたGHBおよびそのisomerである3-ヒドロキシ酪酸(BHB)の死後産生に関する検討を行った。初めに、マウス肝臓における経時的なGHBおよびBHBの死後産生量について定量を試みた。その結果、GHBは死後Ohで検出されず(<0.1μg/g)、3dで4.6±0.7μg/g、2wで45.3±21.0μg/gと死後経時的に上昇したのに対し、BHBは死後Ohで2.3±1.3μg/g、3dで2.0±0.6μg/g、2wで検出されなかった。一般にBHBは飢餓や糖尿病などの糖質の供給あるいはその利用が不十分でTCA回路が効率よく働かなくなった時に、蓄積されたアセチルCoAから産生されると考えられており、本研究結果は、GHBの産生系がBHBのそれとは異なることを示唆する。次に、citric acid、phenylalanine、arginineあるいはspermine等の生体化合物を2日間水以外絶食させたマウスに腹腔内投与したin vivoによる検討を行った。その結果、GHBはcitric acidを投与されたマウスにおいて死後有意に産生され、一方、BHBはcitric acidあるいはarginineを投与されたマウスにおいて死後有意に減少した。さらに、肝臓を用いたin vitroによる検討では、AmpicillinがGHBおよびBHBの産生を有意に抑制した。これらの結果から、死後産生されるGHBのprecursorは主としてcitric acidである可能性が高く、この物質が細菌の働きによりBHB産生経路とは異なった産生系でGHBとなる可能性が示唆された。
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