4-ヒドロキシ酪酸(GHB)は、近年麻薬としての乱用が問題となっている薬物であるが、生前投与されていないにもかかわらず死後の血液、肝臓あるいは尿に高濃度検出されることが報告されている。しかしながら、その産生機序については未だ明らかになっていない。本研究において、死後産生されるGHBのprecursor及びその産生経路を明らかにする目的で、マウスを用いたGHB及びそのisomerである3-ヒドロキシ酪酸(BHB)の死後産生に関する検討を行った。初めに、マウス肝臓における経時的なGHB及びBHBの死後産生量について比較定量を試みたところ、GHBは死後1週間まで経時的に有意に増大し(<0.1μg/g at 0 day、45.3±21.0μg/g at 7 day)、BHBは死後1日で有意に減少(2.3±1.3μg/g at 0 day、0.9±0.7μg/g at 1 day)した後、1週間まで僅かな増大が認められた。次に、種々の生体物質(citric acid、phenylalanine、arginine、succinic acid、glutamic acid、spermin)をそれぞれマウス腹腔内より前投与したin vivoによる検討を行ったところ、GHBはcitric acidにより死後有意に増大し(34.4±23.9μg/g at 1 day)、それはin vitroによる検討でampicillinにより有意に抑制された(約74%減少)。一方、BHBを死後有意に増大させる物質は認められなかったが、飢餓あるいは糖尿病など糖質等の供給あるいはその利用が不十分でTCA回路が効率よく働かない時にBHBは産生されるとするこれまでの報告をサポートする結果が示唆された。 本研究において、死後産生されるGHBの主たるprecursorはcitric acidであり、それはcitric acid fementationにより産生される可能性が示唆され、その産生経路はBHBのそれとは異なることが明らかとなった。さらに、薬物の投与が疑われる血液において、citrateによる血液の保存には注意が必要であることが示唆された。
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