研究概要 |
A.1994年からの9年間の間に、九州大学心療内科を受診した、摂食障害を伴った1型糖尿病女性は、109人であった。そのうち、神経性大食症が70人、むちゃ食い障害が28人、神経性食欲不振症が7人、特定不能の摂食障害が4人であった。これらの患者の糖尿病慢性合併症の発症について、以下のような検討を行なった。 1.摂食障害を伴わない1型糖尿病女性(当科未受診のボランティア29名)に比べて、当科を受診した109名の摂食障害を合併した患者は、有意に血糖コントロールが不良で、糖尿病合併症(網膜症、腎症)の頻度も有意に高かった。 2.摂食障害を伴った109人の1型糖尿病女性について、網膜症のある患者とない患者を比較すると、網膜症のある患者は、糖尿病の発症年齢が有意により若く、糖尿病や摂食障害の罹病期間がより長く、『むちゃ食い』、『インスリン注射の自己判断での中止』、『自己誘発性嘔吐』の期間がそれぞれより長いなどの、違いがあった。また、糖尿病性腎症に関しても、ほぼ同様の違いがあった。 3.網膜症と腎症のそれぞれにおいて、2で有意差のあった因子を独立変数として多変量解析を行ない、独立して発症を促進する危険因子を同定した。 これらの結果は、英文論文にまとめ、現在投稿中である。 B.1型糖尿病に摂食障害を合併した患者は、概して血糖コントロールが著しく不良であり、慢性合併症の発症/進展も早く、若い女性の1型糖尿病患者の臨床において、最も重篤な問題と考えられている。その有効な治療法の早急な開発の必要性が叫ばれていたが、重症例に対する十分に有効な治療法についてはこれまで報告がなかった。そういう中で、九州大学心療内科における治療法とその良好な成績を示した論文が、2003年に英文論文に掲載された。(Takii M, et al.:An integrated inpatient therapy for type 1 diabetic females with bulimia nervosa : A three-year follow-up study. J Psychosom Res 55:349-356,2003)。
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