研究概要 |
1.【目的】 痴呆症やストレス由来の不安症・抑うつ症の増加が深刻な社会問題となっており,これらに対して有効かつ安全性の高い治療薬の開発が望まれている.本研究は,(1)「加味逍遙散」「温経湯」などの漢方処方の抗不安作用,抗うつ作用などの特徴を明確にし,(2)その作用機序と活性本体を明らかにすると共に、(3)ステロイド代謝物質の精神神経作用をGABA神経系およびセロトニン神経系と関連づけて解明することを目的とする. 2.【本研究の実施事項】 本年度は,数種の漢方処方について行動薬理学的検討を行い,「加味逍遙散」と「温経湯」が摂食促進作用を伴うことなく強い抗不安作用を発現することを見出した.このうち,加味逍遙散は用量依存的に抗不安作用が見られたことから,更に詳細を検討した. 加味逍遙散の作用はGABA_A受容体の阻害剤であるpicrotoxinやflumazenilの投与によって阻害され,5-HT_<1A>受容体阻害剤NAN-190投与では阻害されなかった.またGABA_A受容体へ作用する神経活性ステロイド生成系に対する阻害剤finasterideを用いたところ作用は阻害された.以上の結果から,加味逍遙散の抗不安作用発現は神経活性ステロイドを介してGABA_A受容体に作用するものと考えられた.更に加味逍遙散を構成する10種の生薬の寄与について検討した.その結果,一味抜き処方では山梔子抜き,芍薬抜き,甘草抜きの各処方投与群で作用が減弱し,単味生薬エキスでは,山梔子エキスおよび薄荷エキス投与群で抗不安作用が認められた.そのうち山梔子エキスについて濃度検討を行った結果,作用は用量依存的であり,主成分のgeniposideに抗不安活性がみられた.
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