研究概要 |
1.【目的】 昨年度は加味逍遙散(KSS)の抗不安作用を見出し,この作用機序としてアロプレグネノロン様のニューロステロイド類が関与する可能性を示した.これらのニューロステロイド類はムスカリン受容体拮抗薬やNMDA受容体拮抗薬によって誘発される記憶学習障害を改善するとの報告がある.KSSがニューロステロイド代謝系に影響することから,KSSにも記憶改善効果を発現すると考えた.本年はこの仮説を証明するためにスコポラミン誘発健忘モデルマウス,卵巣摘出更年期モデルマウス用いた検討を行った. 2.【本研究の実施事項】 (1)スコポラミン誘発記憶学習障害:受動的回避学習試験ではムスカリン受容体拮抗薬スコポラミン投与群およびNMDA受容体拮抗薬MK-801投与群で記憶学習障害が誘発された.これに対しKSS(50および100mg/kg)の単回投与はMK-801誘発記憶学習障害に対しては改善効果を示さなかったが,スコポラミン誘発記憶障害を改善した.用量の検討ではKSSの12.5,25.0mg/kgの単回投与では改善効果は見られなかった.しかしながら4週間長期投与では10.0mg/kgという低用量でも改善作用を示した. (2)更年期モデルマウス:卵巣摘出により記憶学習能の低下がおこるが,これに対してKSS50mg/kgを長期投与した群では記憶学習能の低下は認められなかった.また卵巣摘出によって大脳皮質のアセチルコリン合成酵素(ChAT)活性は低下するがKSS投与群では低下していなかった. (3)アセチルコリン含量:マイクロダイアリシス法でアセチルコリン含量の測定を試みたが,KSS投与群で増加することが示唆された. KSSは臨床的には,主として精神不安や情緒不安定な症状に用いられているが,本研究の結果は記憶能の改善にも寄与する可能性を示している.
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