研究概要 |
平成15〜16年度にかけて更年期に繁用される数種の漢方処方について検討したところ加味造遙散(KSS)に特徴的な抗不安作用を見出した.またその作用に最も寄与する生薬は山梔子であることを見出し,ゲニポシドが主要な活性成分であることを示した.作用機序として従来の抗不安薬とは異なり,アロプレグネノロン様のニューロステロイド類が関与することを明らかにした. これらのニューロステロイド類はムスカリン受容体拮抗薬やNMDA受容体拮抗薬によって誘発される記憶学習障害を改善するとの報告がある.KSSがニューロステロイド代謝系に影響することからKSSにも記憶改善効果を発現すると考え,平成17年度はこの点にっいて検討した.すなわちこの仮説を証明するためにスコポラミン誘発健忘モデルマウス,卵巣摘出更年期モデルマウス用いた検討を行い,次のような成績を得た. スコポラミン誘発記憶学習障害:受動的回避学習試験ではムスカリン受容体拮抗薬スコポラミン投与群およびNMDA受容体拮抗薬MK-801投与群で記憶学習障害が誘発された.これに対しKSS(50および100mg/kg)の単回投与はMK-801誘発記憶学習障害に対しては改善効果を示さなかったが,スコポラミン誘発記憶障害を改善した.用量の検討ではKSSの12.5,25.Omg/kgの単回投与では改善効果は見られなかった.しかしながら4週間長期投与では10.Omg/kgという低用量でも改善作用を示した. 更年期モデルマウス:卵巣摘出により記憶学習能の低下がおこるが,これに対してKSS50mg/kgを長期投与した群では記憶学習能の低下は認められなかった.また卵巣摘出によって大脳皮質のアセチルコリン合成酵素(ChAT)活性は低下するがKSS投与群では低下していなかった. KSSは臨床的は精神不安や情緒不安定な症状に用いられているが,本研究の結果は,それらを支持し更に記憶能の改善にも寄与する可能性を示した.
|