本研究は胆汁酸によるアポトーシス・細胞増殖作用に関してアポトーシス関連分子や細胞増殖関連分子あるいは転写因子の側面から解明しようとするものであり、平成15年度から平成16年度の2年間で計画されている。本年度は、初年度にあたり胆汁酸によって活性化されるアポトーシス関連分子と抗アポトーシス関連分子、さらに細胞増殖関連分子について検討した。 その結果、胆汁酸は高濃度において肝細胞のアポトーシスを誘導するが、低濃度においてはむしろ肝細胞の抗アポトーシス作用や細胞増殖作用を誘導することが明らかになった。具体的には、高濃度胆汁酸ではカスパーゼ3やカスパーゼ9を強く誘導した。さらに、これら高濃度胆汁酸によるアポトーシス作用はカスパーゼ8阻害剤では抑制されず、カスパーゼ9阻害剤では抑制された。これらの結果から、高濃度胆汁酸によるアポトーシス作用は、ミトコンドリア障害性にアポトーシス経路が活性化されることを示唆していた。一方、低濃度胆汁酸において、肝細胞のアポトーシスはカスパーゼ活性化以前に転写因子NF-κBが活性化されることによって誘導される抗アポトーシス蛋白であるIAP-1によって阻害されることを明確にした。また、胆汁酸は他の抗アポトーシス蛋白として知られているLAP-2やXIAPを誘導しなかった。さらに、肝細胞において、低濃度胆汁酸は細胞増殖作用を有するサイクリンD1活性を強く誘導し、細胞増殖を促進することも推測された。従って、本研究は、従来から肝細胞の自己増殖作用は報告されているが、これらのメカニズムに生理的に存在している胆汁酸が肝細胞の抗アポトーシス・細胞増殖誘導を介して作用している可能性を明らかにした。
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