胆汁酸によるアポトーシス・細胞増殖作用の解明 胆汁酸は高濃度において肝細胞のアポトーシスを誘導するが、低濃度においてはむしろ肝細胞の抗アポトーシス作用や細胞増殖作用を誘導することを明らかにした。すなわち、高濃度胆汁酸によるアポトーシス作用はカスパーゼ8阻害剤では抑制されず、カスパーゼ9阻害剤では抑制された。これらの結果から、高濃度胆汁酸によるアポトーシス作用は、ミトコンドリア障害性にアポトーシス経路が活性化されることを示唆していた。一方、低濃度胆汁酸において、肝細胞のアポトーシスはカスパーゼ活性化以前に転写因子NF-κBが活性化されることによって誘導される抗アポトーシス蛋白であるIAP-1によって阻害されることを明確にした。さらに、肝細胞において、低濃度胆汁酸は細胞増殖作用を有するサイクリンD1活性を強く誘導し、細胞増殖を促進することも推測された。 胆汁酸によるfarnesoid X receptorとNF-κBの相互活性化機構と標的遺伝子の解明 farnesoid X receptor単独ではNF-κB依存性レポーター遺伝子である2XkB-Lucの転写を誘導できなかった。一方、2XkB-Lucの転写はNF-κB単独と比較してfarnesoid X receptor発現量依存性に活性化された。その作用は、NF-κBのコンポーネントの中で、p65に認められた。また、farnesoid X receptorとNF-κBはそれぞれダイマリゼーション部位を介して結合していることが明らかとなった。次に、NF-κB活性化の情報伝達系の中で、胆汁酸は、特に重要なIκBキナーゼをリン酸化していることを解明した。さらに、DNAチップを用いた解析から、胆汁酸によって活性化される抗アポトーシス蛋白IAP-1や細胞周期に重要なサイクリンD1遺伝子の他に、細胞生存シグナルとして重要なPI3キナーゼやPKC、あるいはIκBキナーゼαを誘導することが明らかとなった。 以上の結果から、胆汁酸は直接NF-κBを活性化するとともに、farnesoid X receptor活性化を介したNF-κB活性化機構を介して肝細胞増殖や抗アポトーシス作用を有する標的遺伝子を活性化させ肝再生機構に深く関与していることを明らかにした。
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