研究概要 |
[背景] 成体膵再生過程において、膵発生過程において活性化する種々の転写因子が同様に発現し、両者には共通の機構が働いていることが予想される。一方、Notch signalingの活性化がヒトT細胞白血病、前立腺癌、マウス乳癌など様々な臓器の癌化に関与していることが示されているが、膵癌化機構におけるNotchの役割についてはいまだ不明である。 [目的] 膵癌化機構におけるNotch関連遺伝子の役割を明らかにし、Notch signalingの制御による膵癌に対する新しい分化誘導療法を開発することを目的とする。 [結果] 本年度はGreen mouse, C57BL/6Tg14(act-EGFP)OsbY01を用いてマウス膵癌モデルを作製した。 ラット膵に特異的に膵管癌を誘導したRivera JAらの方法を一部改変(Surgery 1997)し、体重30gのマウス膵実質内に0.1% polyoxyethylenesorbitan monolaurateに溶解したchemical carcinogen、dimethylbenzanthracene(DMBA)を注入し、経時的に膵組織像およびNotch関連遺伝子の発現を検討した。 1)DMBA処理2週後のマウス膵に、tubular complexの形成を認めた。 2)DMBA処理1ヶ月後のマウス膵に、PanIN-2,3相当の異型腺管上皮の出現を認めた。 3)DMBA処理3ヶ月後のマウス膵に、DMBA注入部に一致して腫瘍の出現を認めた。血性腹水を伴い、腫瘍細胞の腹腔内播種が示唆された。腫瘍は組織学的に、ヒト膵癌におけるanaplastic carcinomaに酷似した浸潤癌で、腫瘍は一部腸管、脾像に浸潤していた。肺、肝を含む多臓器に腫瘍の出現は認めていない。DMBAと同量のNaClを投与したマウス膵に組織学的変化は認められなかった。 4)免疫組織化学で、異型膵管上皮にNotch1、HES1発現を認め、膵癌化過程におけるNotch signaling pathwayの活性化が示唆された。 [考察] 1)本モデルは、膵癌発生過程における遺伝子発現を経時的に検討する上で適したモデルと考えられる。 2)膵癌化過程にNotch signaling pathwayが関与している可能性が示唆された。 3)microdisectionを用いた遺伝子発現の検討、膵癌前駆細胞/膵癌細胞の分離を予定している。
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