われわれがCrohn病患者腸病変よりクローニングした遺伝子(Cl50)がコードする蛋白に対して、非炎症性腸疾患患者の18.8%が抗体を有するのに対しCrohn病患者では45.4%と高率に抗体を有することがWestern blotにより判明した。Cl50を遺伝子解析した結果、Cl50は2つのペプチドにより構成され、前半のペプチド(39アミノ酸)はPeroxiredoxin6と63%の、後半のペプチド(114アミノ酸)はCathepsin Kと100%の相同性を有することが明らかとなった。さらに、前半と後半のペプチドをコードする遺伝子の間にはstop codonが存在することが判明し、Cl50が発現をコードしているのはPeroxiredoxin6類似蛋白と考えられた。 Crohn病患者がCl50のコードするPeroxiredoxin6に対して抗体を有しているのか否かを明らかにするため、Peroxiredoxin6類似蛋白のうち特にPeroziredoxin6と95%の相同性を有する20個のアミノ酸残基よりなるペプチドを合成し、このペプチドに対する血中抗体価をCrohn病患者(19例)、潰瘍性大腸炎患者(11例)および対照(10例)の血清を用いてELISA法により測定した。その結果、Crohn病患者は対照に比しペプチドに対する抗体価が有意に高いことが明らかとなった(P=0.0166)。Peroxiredoxinは細胞を酸化ストレスから保護する作用を有していることが知られており、またCrohn病の病因に酸化ストレスが関与している可能性が報告されている。本研究結果より、一部のCrohn病患者では自己の血中抗体によりPeroxiredoxin6の一部が中和されることにより酸化ストレスからの細胞保護作用が低下し、このことがCrohn病病因に関与している可能性が示唆された。
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