本研究において我々は、アデノシンA2A受容体を介した、各種免疫担当細胞内のサイクリックAMP調節による炎症反応制御機構に関して、in vivo、in vitroの検討をおこなった。in vitroの系では、マウス腸間膜リンパ節より分離培養したCD4陽性リンパ球を用いた実験にてアデノシンA2A受容体を介したシグナル伝達がtumor necrosis factor (TNF)、interferon gamma (IFN)などの炎症性サイトカイン発現を抑制し、またCD4陽性リンパ球の増殖を抑制することによりTh1免疫応答の特異的制御に働くことを明らかにしつつある。また炎症性腸疾患において重要な役割を果たすと考えられている血管内皮細胞を用いた実験ではTNF-αによるIL-8の発現を抑制しえることを発見した。 In vivoの実験系ではアデノシン受容体アゴニストであるATL-146e、その下流のシグナルの調節因子であるフォスフォジエステラーゼ阻害薬(rolipram)による、胃、肝臓など各種消化器疾患モデルにおける効果を検討した。アスピリン、インドメタシン、水浸拘束ストレスによる胃粘膜傷害モデルを用いた検討では、アデノシンA2A受容体アゴニスト、4型フォスフォジエステラーゼ阻害薬は胃粘膜における好中球浸潤のマーカーであるミエロペルオキダーゼ活性、炎症性サイトカインTNF-α、IL-1β発現を抑制することにより胃粘膜傷害を抑制した。またLPS、concanavalin-Aによる肝障害モデルにおいてはATL-146eは炎症性サイトカイン発現抑制により肝障害を抑制しえた。以上の結果よりアデノシンは炎症性サイトカイン発現制御により炎症性腸疾患の発症等に関与している可能性が示唆された。
|