今回の研究は当大学消化器内科、無菌治療部において倫理委員会の承認を受けて臨床試験が行われている、手術不能膵癌症例に対する骨髄非破壊的末梢血造血幹細胞移植(ミニ移植)の治療効果を基礎的に検討する目的で開始されている。今年度の具体的な研究内容としては、まず新規細胞免疫治療として期待されるこのGVT療法のマウスモデルを作製し、1.大腸癌、膵癌細胞に対する抗腫瘍効果の評価、2.重篤な合併症であるGVHDに対する分子標的治療の可能性についての検討である。 1 治療効果の検討 移植による治療効果はドナーリンパ球移植群において非移植群に比較して有意に増強し、これは臨床におけるDonor Lymphocyte Infusionの抗腫瘍効果を反映するものと考えられた。組織学的検討においても癌組織へのドナーリンパ球をGFPトランスジェニックマウスのリンパ球を用いることで可視化し、腫瘍組織へのその浸潤を確認しえた。さらにIn situ TUNEL assayにより腫瘍細胞に対するアポトーシス誘導も検出しえた。そのGVT機序に伴って癌組織における分子の発現を検討するためにcDNAマイクロアレイによる検討を行った。GVT効果が見られるドナーリンパ球移植群の腫瘍組織ではインターフェロンγなど炎症性サイトカインの発現が増加しており、Th1免疫応答の賦活が示唆された。今年度の研究ではGVT効果のエフェクター細胞であるCTLの殺細胞効果がFasLとTRAILの協調的作用により発揮されることを見いだした(投稿中)。 2 GVHDに対する分子標的治療の可能性についての検討 ミニ移植においてもGVHDの合併は完全に軽減されるわけではなく、重篤な合併症であるGVHDへの対策は以前から大きな課題である。今回GVHDの病態にP38の活性が与える影響をノックアウトマウスを用いた実験系で検討した。今年度の研究成果より、ドナーにおけるP38の発現低下が腸管GVHDを悪化させることを見いだした(in press)。
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