研究概要 |
HGF(Hepatocyte Growth Factor)は肝細胞増殖促進、肝再生促進作用を有する事が認められている。また近年他臓器においても、再生促進、臓器保護作用など様々な活性を有することが報告され、臨床応用も考慮されている。一方、近年アミノ酸は単に栄養素となるだけでなく、薬理学的に作用しうることが注目されている。中でもBCAA(Branched-Chain Amino Acids, Val, Leu, Ile)は増殖、蛋白合成をはじめとする種々の細胞機能を調節する事が知られる様になった。その機序としては細胞内情報伝達系の活性化が考えられている。本研究では、生理物質であるBCAAのHGF発現調節を介しての肝に対する作用を検証することを目的とした。ラット株化肝星細胞に各種BCAAを添加すると、Leuのみが濃度依存的に培地中のHGF濃度を上昇させた。また経時的に見ると、観察期間中、Leu添加群と非添加群ではHGF濃度の差は時間依存的に大きくなっていった。LeuはHGF産生を刺激していると考えられる。更にラットを用いた検討においてやはりLeu投与によってのみ肝及び血中のHGFが増加した。また臨床例でも同様にBCAAが肝硬変患者の血中HGFを増加させうる事を認めた。生体においてもLeuはHGFの産生を促進すると考えられる。その機序としては、Leuはラット株化肝星細胞のp70 S6 kinase及びeukaryotic initiation factor 4E binding protein 1の燐酸化を短時間で亢進させており、mTOR(mammalian target of rapamycim)の特異的阻害剤であるrapamycinによりこれらの活性化、及びHGFの産生促進が抑制されたことから、mTORを介した細胞内情報伝達系が関与している事を見出した。
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