背景と目的 現在、進行消化器癌に対する治療の新たなアプローチとして、免疫療法の有効性の向上が期待されている。しかし、免疫原性の高いメラノーマなどでは、免疫療法の臨床的有効性が示されているが、免疫原性の乏しい消化器癌に対する有効な免疫療法は極めて少ない。消化器癌細胞に腫瘍抗原CEAが高頻度に発現していることは良く知られているが、CEAを標的とした免疫療法の試みは、その抗原性の低さゆえに満足できる抗腫瘍効果を得るには至っていない。 抗原をより強く提示させより強力なCTLを誘導するためには、抗原ペプチドとMHCクラスI分子の結合の場である粗面小胞体へ、抗原分子を効率良く輸送することも重要である。Calreticulin(CRT)は、粗面小胞体に局在する分子シャペロンであるため、CRT融合蛋白は抗原蛋白とともに粗面小胞体へ移動し抗原ペプチドとMHC分子との結合を促進するばかりでなく、抗原を細胞外に分泌させ抗原提示細胞のいわゆるcross-primingを経て、その抗原提示能を高めることが示され注目されている。 また、full-length protein cDNAを用いたDNAワクチンはペプチドを用いる方法と異なり、すべてのアミノ酸配列が細胞内で発現しプロセッシングされるため、患者HLAに規定されずに抗原ペプチドとなりうる配列が免疫担当細胞に提示される利点を有している。 平成15年度の成果 CRT cDNAをRT-PCR法を用いて増幅して作製した。CEA cDNAは、アラバマ大学のDr.Strongより供与を受けた。また、本研究のコントロールとして、メラノーマ抗原TRP-2も同様に、RT-PCR法を用いて、Full-length TRP-2 cDNAを得た。本年度は、まずCRT/TRP-2融合蛋白を発現し得るDNAワクチンを作製した。CRT単独、TRP-2単独、及びCRT/TRP-2融合蛋白cDNAをコードするDNAワクチンを、それぞれC57/BLマウスに免疫したのちメラノーマ細胞B16F10細胞を接種することによって、それらの腫瘍増殖抑制効果について比較検討した。その結果、TRP-2あるいはCRT cDNA単独でワクチンしたマウスに比べ、CRT/TRP-2融合蛋白cDNAで免疫した群では、腫瘍増殖の抑制効果が認められ、CRT/腫瘍抗原融合蛋白による抗腫瘍効果増強の可能性が示された。現在、CRT/CEA融合蛋白DNAワクチンを作製中であり、来年度は抗原性の低いCEAにおいても腫瘍増殖抑制、腫瘍縮小効果について検討を行う予定である。
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