研究概要 |
1.マウス上皮細胞のプライマリーカルチャー法の確立およびその形質発現に関する検討 3weeksの雄マウスを用い,胃上皮から組織片遊走法を応用した方法で、上皮細胞を分離培養することに成功した。この細胞をゲル内で培養すると,同じく胃の間質の繊維芽細胞を培養したゲルと接触させた時のみ,腺管様の構造を呈し,繊維芽細胞から胃上皮細胞の分化を誘導する因子が分泌されていると考えられた。 本細胞のoriginを明確にするため、RT-PCRと免疫染色を行い以下のような結果を得た。 RT-PCRでは胃に特異的なSOX2,Sonic Hedgehog, MUC5AC, MUC6の発現が見られたが,HK ATPase, Pepsinogen1はnegativeであった。一方、腸に特異的なCDX1、MUC2,Villinはnegativeであった。CDX2は弱陽性であった。蛍光免疫染色ではtight junction protainのocculudin, SOx2,Sonic Hedgehog, MUC5AC, MUC6が染色され、胃の粘膜上皮と判断した。 現在,上皮,間質間でやりとりされている因子につき検討を進めるとともに,このモデルを用いて,分化制御の分化機構につき検討中である. 2.臨床胃癌症例における胃型,腸型形質発現の検討 我々は、胃がんにおける胃型,腸型形質発現を検索し、ホメオボックス遺伝子Cdx1,Cdx2との関係を検討した。ヒト進行胃がん70例でのCdx1,Cdx2の発現をmRNAレベルで検索したところ、胃がんの組織型とこれらのホメオボックス遺伝子の発現は無関係であった。しかし、Cdx1,Cdx2 mRNAの発現はG type->GI type->I typeになるに従い増加した。抗Cdx2モノクローナル抗体を用いたCdx2の免疫組織化学的な検討では、Cdx2発現は、腸型形質発現を有する胃がん細胞に一致して発現し、組織型とは無関係であることが確認された。我々はさらに、ヒト進行胃がん177例を用いて、胃がんとCdx2発現の臨床病理学的な検討を行った。Cdx2発現は、腸型形質発現と高い相関性を示しCdx2陽性胃がんの方が、陰性胃がんより5年生存率が良好であった。さらに、G型、GI型、I型、N型の4種類に分類される形質発現にて、5年生存率を検討した結果、GI型->I型->G型->N型の順に予後が良好であった。つまり、腸型形質を有する胃がんの方が、予後が良い結果となった。
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