1.ヒト食道正常上皮細胞(HEEC)を用いて、protease-activated receptor(PAR)の発現動態を検討した。HEEC上にはRT-PCR、ウエスタンブロットおよび免疫染色にてPAR-2のmRNAおよび蛋白が恒常的に発現していたが、TNFおよびトリプシンの刺激によりさらに誘導された。 2.次に、PAR-2活性化による炎症性サイトカインIL-8の産生動態を検討した。PAR-2の内因性アゴニストであるトリプシン、合成アゴニストであるSLIGKVアミドの刺激により、HEECから時間および容量依存性にIL-8の産生が認められた。 3.IL-8遺伝子発現に関与する転写因子について、IL-8遺伝子上の転写因子結合部位をmutationさせた遺伝子を導入し、ルシフェラーゼアッセイを用いて検討した。NFkappaB結合部位のmutationはルシフェラーゼ活性の誘導を顕著に抑制したが、AP-1結合部位およびNF-IL6結合部位のmutationでは軽度の抑制であった。 4.正常者、逆流性食道炎患者のヒト食道生検組織を用いて、PAR-2mRNAを測定した。PAR-2mRNAは、正常者より胃食道逆流症患者で高発現する傾向にあった。特に、内視鏡陰性のsymptomatic-GERDの患者では有意に高かった。 以上より、ヒト正常食道上皮にPAR-2が発現していること、トリプシンをはじめとするPAR-2のアゴニストは、PAR-2を介してNfkappaB依存性のIL-8産生を惹起することが明らかとなった。食道内へ逆流したトリプシンをはじめとする蛋白分解酵素はPAR-2を介して食道粘膜炎症(逆流性食道炎)を惹起すると考えられる。
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