研究概要 |
ペルオキシソーム増殖剤応答性レセプター(PPAR)は核内受容体ファミリーに属する転写因子であり,PPARα,PPARδ,PPARγの3種類のサブタイプが存在している.PPARは各種の細胞で発現しており,細胞の分化,増殖,細胞死調節など基本的な細胞機能への関与が明かとなりつつある.消化管上皮細胞においてもPPARの発現は認められ,特にPPARγリガンドが消化管上皮細胞の増殖能に影響を与えることが報告されているが,他の生理的な細胞機能に対するPPARの役割の詳細については不明の部分が多い.本研究においては,消化管上皮細胞におけるPPARの機能について焦点をあて,その解析を行うことを目的とした.今年度の研究において得られた主な知見は以下に述べるとおりである.1.胃粘膜上皮細胞から分泌され胃粘膜防御に重要な作用を有しているTFF (trefoil factor family)ペプチドのうち,TFF2の発現が15d-PGJ_2やチアゾリジン誘導体などのPPARγリガンドにより強く誘導されることを見いだした.この結果により,PPARγがTFFを介して胃粘膜防御に関与していることが示唆された.2.Indomethacinなど,PPARγのリガンドとなりうるNSAIDsも,同様にTFF2発現誘導作用を有していることを見いだした.これは,NSAIDs起因性胃粘膜障害における適応反応としてTFF2の誘導が重要である可能性を示唆している.3.TFF2遺伝子のプロモーター領域にはPPRE(PPAR応答領域)は存在していないが,レポーター遺伝子を用いた検討から,TFF2プロモーター上の2つの領域が,PPARγの作用においては必要であることが明かとなった.次年度の研究により,PPARの消化管上皮細胞における作用様式をさらに詳細に解析できると思われる.
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