喫煙が健康に及ぼす影響に関する研究は呼吸器疾患を中心として種々検討されているが、肝臓に関しては殆ど行われていなかった。しかし最近になって、喫煙の肝に及ぼす影響が注目されはじめ、慢性肝炎の線維化進展や肝発癌に喫煙が関与することが明らかにされている。我々はこれまでに喫煙が肝に及ぼす影響の科学的根拠を明確するために、喫煙の主産物であるニコチンが直接肝血流に及ぼす効果を検討してきた。さらにニコチンの中枢投与によって門脈圧が亢進し、肝血流量が減少することを明らかにした。そこで中枢性ニコチンが肝微小循環およぼす効果と自律神経系の関与を検討した。ウレタン麻酔下でウィスター系雄性ラットを用いて実験を行った。肝血流はレーザー・ドップラ法で観察し、同時に門脈と頸動脈へのカニュレーションを行い、動脈血圧と門脈圧を観察した。60分間の安定化の後、ラット脳槽内にニコチン(0.01〜10μg)を投与して肝血流、動脈圧、門脈圧の変化を観察した。またニコチンの脳内投与による肝血流変化の作用機序を明らかにするために迷走神経肝臓枝切断術、門脈周囲の神経叢へのフェノール塗布、6-hydroxydopamine(6-OHDA)前投与およびアトロピン前投与を行った。その結果、ニコチン(1μg)の脳槽内投与により投与後15分をピークとする門脈圧の上昇と肝血流の減少が観察された。これらニコチンによる門脈圧上昇および肝血流減少作用は、迷走神経肝臓枝切断術とアトロピン前投与の影響は受けなかったが、フェノールによる交感神経除去および6-HHDAによるノルアドレナリン作動性神経の除神経によって消失した。以上の結果より、ニコチンは中枢神経系に作用して交感神経およびノルアドレナリン神経を介して門脈圧を上昇させ、肝血流を減少させることが示唆された。
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