複雑なネットワークが想定される粘膜防御能調節機構の解明をめざして、神経網形成を促す因子である神経栄養因子の消化管における存在の可能性について調べ、以下のような結果を得た。 1)成熟ラットから、胃、小腸、大腸の各組織を採取し、各部位におけるNGF(nerve growth factor)の発現を調べたところ、いずれの部位でもそのmRNAの発現が確認された。シークエンスを検討したところ、胃から検出されたNGFは脳におけるものと一致した。 2)同様に、ラット消化管各部位におけるBDNF (brain-derived neurotrophic factor)の発現を検討したところ、NGFと同じように、胃、小腸、大腸ともに確認された。シークエンス結果も、脳のBDNFと同じであった。 3)脳神経科学領域における既存の増殖因子であるNT-3(neurotrophin-3)についても胃、小腸、大腸のラット消化管各部位でともに同一と考えられるものが確認されたが、新規のものは現在までのところ検出できていない。 4)成熟マウスを用いて同様の検討を行ったが、結果はラットの場合と同様であった。 5)以上の結果は、脳科学や神経科学の研究領域で多彩な機能を有することが明らかとなっている神経栄養因子が消化管にも存在することを示したものであり、脳腸ホルモンでその関連性を指摘されている「消化管」と「神経」の綿密な連関の新たなる一面を見いだす端緒となりうると考えられた。
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