H.pylori感染胃炎の進展とグレリン動態

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 15590686
• 研究機関: 慶應義塾大学
• 研究代表者: 鈴木 秀和 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (70255454)
• 研究分担者: 寒川 賢治 国立循環器病センター研究所, 部長 教授(併任) (00112417)
• キーワード: Helicobacter pylori / グレリン / スナネズミ / 慢性胃炎 / 胃粘膜萎縮 / ペプシノーゲン / ミエロペルオキシダーゼ / 摂食

研究概要

H.pylori感染スナネズミでの検討
H.pylori感染スナネズミでのグレリン動態を解析するために、スナネズミのプレプログレリンのcDNA配列(GenBank accession no.AF442491)とglyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase (GAPDH)のcDNA配列(GenBank accession no.AY066007)を決定した。この配列を基に、プローブを作製し、消化管におけるプレプログレリンmRNA発現量を定量的RT-PCRで検討した。スナネズミの胃粘膜におけるプレプログレリンのmRNA発現は、十二指腸、空腸に比して有意に亢進しており、胃粘膜が主要な発現部位であることが示唆された。そこで、雄性スナネズミ(5週齢)にH.pyloriを経胃管的に投与し、感染4週後、17週後,23週後に絶食下に血液及び胃を摘出した。H.pylori感染は微好気培養法にて定量し,胃粘膜内好中球浸潤についてはミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性にて評価した。スナネズミ胃粘膜ではH.pylori感染17週及び、23週後にプレプログレリンのmRNA発現は有意に低下した(p<0.01)。血漿中及び胃内グレリンのペプチド量解析は、活性を担うN末端に対する抗体および総量を示すC末端に対する抗体でのradioimmunoassay (RIA)にて行い、抗グレリン抗体を用いた免疫組織化学により胃粘膜内グレリン産生細胞の分布を評価した。グレリン陽性細胞は胃底腺のH^+-K^+ ATPase陽性壁細胞の近傍に分布した。また、胃内グレリン量(fmol/mg)に胃重量を乗した単一胃あたりの総グレリン量を算出したが、H.pylori感染により、胃内グレリン陽性細胞の密度は減少したが、胃重量が増加したので、単一胃あたりの総グレリン量あるいは活性型グレリン量は変化しなかった。胃内MPO活性は、血漿グレリン値と有意に相関した。感染17週後にのみ、血漿総グレリン値は有意に増加したが(p<0.05)、これは、感染の比較的初期における代償性の分泌亢進と考えられた。H.pylori感染により、胃内及び血漿グレリン量は変動することがスナネズミの感染モデルで明らかとなった(Gut 53(2) : 187-194, 2004)。
H.pylori感染陽性および陰性の慢性胃炎患者での検討
インフォームドコンセントの下に、上部消化管内視鏡検査を施行した慢性胃炎患者の空腹時血漿グレリン値と血清ペプシノーゲンI,ペプシノーゲンII,ペプシノーゲンI/II比及びH.pylori感染状態を検討した。H.pylori感染診断は、血清抗H.pylori IgG抗体、尿素呼気試験、生検病理組織を用いた。内視鏡的萎縮の広がりを木村・竹本分類に基き評価した。空腹時血漿グレリン値は、血清ペプシノーゲンIおよびペプシノーゲンI/II比は、有意な正の相関をH.pylori感染の有無では変化しなかった。また、内視鏡的萎縮が進展するほど、空腹時血漿グレリン値は有意に低値を示した。

研究成果

• [文献書誌] Masaoka, T., Suzuki, H.et al.: "Enhanced plasma ghrelin levels in streptozotocin-induced diabetic rats."FEBS Letters. 541(1-3). 64-68 (2003)
• [文献書誌] Miyazawa, M., Suzuki, H.et al.: "Suppressed apoptosis in the inflamed gastric mucosa of H.pylori-colinized iNOS knockout mice."Free Radical Biology and Medicine. 34(12). 1621-1630 (2003)
• [文献書誌] Suzuki, H.et al.: "Rabeprazole treatment attenuated H.pylori-associated gastric mucosal lesion formation in Mongolian gerbils."Journal of Gastroenterology and Hepatology. 18(7). 787-795 (2003)
• [文献書誌] Suzuki, M., Suzuki, H.et al.: "Helicobacter pylori-eradication therapy inhibits neutrophil-derived oxidants in the ulcerous mucosa in the human stomach : Relationship between ulcer stage and mucosal oxidant level."Digestive Endoscopy. 15(4). 270-275 (2003)
• [文献書誌] Suzuki, H.et al.: "Helicobacter pylori infection modifies gastric and plasma ghrelin dynamics in Mongolian gerbils."Gut. 53(2). 187-194 (2004)
• [文献書誌] Suzuki, H. et al.: "Lansoprazole promotes gastric mucosal cell proliferation and migration by activating P44/P42 mitogen-activated protein kinase."Wound Repair and Regeneration. 12(1). 93-99 (2004)
• [文献書誌] Han, J-Y., Suzuki, H.et al.: "Microcirculation Annual 2003 (Makishige Asano & Soichiro Miura)"Nihon-Igakukan, Tokyo. 39-40 (2003)