ヒト肝細胞癌の治療法を開発するために、特に分子標的治療を目標にして研究を継続してきた。我々は既にTGF-βを用いて継代肝癌細胞株を処理すると細胞はアポトーシスにより死滅し、さらにG1期細胞周期停止により増殖を停止することを見出してきた。今年度はこれらの分子機構を解明するために研究を行ってきた。その結果、TGF-βにより生ずるG1期細胞周期停止は、p38MAPKがリン酸化され活性化することによりp21Cip1が増加し、これがcycE : cdk2活性を抑制し最終的にはRb蛋白質を低リン酸化状態にすることにより生じていることが明らかになった。p38MAPKの活性化がp21Cip1の発現上昇に関与しているという報告はほとんど見あたらず新規のシグナル伝達系の可能性が高い。また並行して観察されるアポトーシスは、G2/M期に生じておりcdc2の15番目のチロシン残基が脱リン酸化することにより生じていることが明らかになった。cdc2の15番目のチロシン残基のリン酸化は複雑に調節されており、現在cdc25c、Wee1、Myt1のどの分子がこれに実際関与しているのか解析中である。また我々は、p21Cip1に対するsiRNAでG1期細胞周期停止を抑制すると、細胞のG2/M期での割合が増加しアポトーシスがより増強されるのではないかと予想し実験した。するとアポトーシスの割合が5-7倍増加した。このことより、p21Cip1よるG1細胞周期停止は、細胞がG2/M期へ進行することを抑制するため細胞をアポトーシスから回避する機構とも考えられ、一種の生存シグナルとして機能している可能性を示唆するものである。
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