研究概要 |
肝硬変では高率に耐糖能障害を合併しているが、これは主にインスリン抵抗性の増大によるものと考えられている。しかし、進行した肝硬変では、グルカゴン貯蔵量の低下等からインスリン拮抗ホルモンに対する反応も低下していると考えられる。一方、肝硬変に伴う肝性脳症の場合、分岐鎖アミノ酸含有量の多いアミノ酸製剤を投与することがある。一般的にアミノ酸はインスリンやグルカゴン分泌を刺激することが知られているが、血糖値にどのような影響を及ぼすかは明かでない。そこで、肝不全用特殊アミノ酸製剤を投与し、肝予備能別に血糖値やインスリン、グルカゴン値がどのように変動するかを検討した。アミノ酸投与により血糖値は、Child-Aの早期肝硬変では2型糖尿病例と同様に著明に上昇したが、Child-B,Cの進行肝硬変では健常人と同様に軽度上昇にとどまった。インスリン、CPRおよびグルカゴンは、すべての群においてアミノ酸投与開始後上昇したが、グルカゴン/インスリン(G/I)モル比はすべての群で低下していた。G/Iモル比の低下にもかかわらず早期肝硬変では血糖値が上昇し、進行肝硬変ではその上昇が軽度であったことは、肝硬変ではまずインスリン抵抗性の出現によりグルカゴンの作用が優位となって現われ、肝予備能の低下とともにグリコーゲン貯蔵量が減少し、グルカゴンに対する抵抗性も出現し、これにより血糖値上昇が軽度となることが推測された。進行肝硬変に対して、アミノ酸製剤とブドウ糖を同時に投与した場合には、血糖値は著明上昇を示し、これに伴いインスリンの著明上昇とグルカゴンの分泌抑制がみられ、G/Iモル比の低下は遷延する傾向を示した。このように肝予備能によってインスリンやグルカゴンに対する血糖値の反応性が異なることは肝疾患に対する栄養療法や糖尿病治療の際には肝予備能の違いを考慮して検討する必要があると考えられた。
|