研究概要 |
(1)正常人・患者のゲノムの登録 現在までに正常ボランティア120人、先天性QT延長症候群(LQTS)30例、後天性LQTS 4例、無症候性Brugada症候群(BS)30例、有症候性BS 37例、進行性心臓ブロック(PCCD)2例、心房停止2例の末梢血よりゲノムを抽出し、遺伝子解析をおこなった。 (2)遺伝子変異の同定・機能解析 先天性LQTS 1例にKCNH2遺伝子変異を同定した。先天性LQTS 2例、後天性LQTS 1例、無症候性BS 1例、有症候性 5例、PCCD 1例、心房停止 1例にSCN5Aの遺伝子変異を同定した。ヒトNaチャネルcDNA(hNav1,5)に上記8種類の変異を導入し、tsA201細胞に一過性トランスフェクションし、パッチクランプで全細胞Na電流を測定し、変異Naチャネルの機能を解析した。有症候性BS変異5例のうち中2例と心房停止1例の変異は無機能チャネルであった。先天性・後天性LQTS症例は典型的な3型LQTS様の遅延電流を示した。無症候性BS症例に見られた変異は同一exon上のdouble mutationであり、Na電流を低下させる特徴的なチャネル機能異常を示した。後天性BSの一例の機能異常は軽微であったが、その他の変異は典型的な機能低下を示した。 (3)SCN5Aの遺伝子多型(SNP) 以前から報告されているSCN5AのSNPのほかに、新たな2種のSNP V1951L,・L1988Rを同定した。これらのSNPについて正常人、有症候性・無症候性BS患者のallele頻度をTaqman PCR法によって明らかにしたが、Brugada症候群症例にこれらのSNPが多い傾向は見られなかった。これらのSNP Naチャネルの機能とI群抗不整脈薬であるフレカイナイドの薬効を(2)と同様の手法で解析したが、現時点ではI群抗不整脈薬に感受性が強いNaチャネルSNPはなかった。 (4)総括 無症候性BSに遺伝子変異が同定されたのは本研究が世界的にも初めてであり、非常に重要な知見である(Yokoi et al., Heart Rhythm, in press)。心房停止に認められたSCN5A変異は、我々の関連で2例目、世界的にも4例目である。本例は心房特異的なギャップジャンクションConnexin 40のSNPの合併例であり、さらに詳細な検討をおこなっている。
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