心肥大の形成、心不全への移行過程及び梗塞後心室リモデリングにおいて、アンジオテンシンII等の液性因子及びその受容体下流に位置するイノシトールリン脂質代謝は重要な役割を担う。ジアシルグリセロールキナーゼおよびフォスファチジン酸フォスファターゼはこの情報伝達系において、重要な位置を占める酵素でありPKC活性化の働きを持つジアシルグリセロールの量を制御している。 ラットの上行大動脈狭窄による圧負荷肥大心モデルにおいて、大動脈狭窄術施行3週間後に、ジアシルグリセロールキナーゼε mRNAの有意な発現低下とジアシルグリセロールキナーゼζ蛋白の膜分画/細胞質分画比の有意な低下を観察した。これに一致して、心筋ジアシルグリセロール含量の増加が確認され、また、PKCδの膜分画における蛋白発現が増加していた。一方、心筋のフォスファチジン酸フォスファターゼmRNAの発現には変化がみられなかった。 さらに、ジアシルグリセロールζを心筋特異的に過剰発現するマウスを作製したが、その表現型は蛋白の発現量により異なっていた。すなわち、中等度過剰発現の系統では心臓の表現型が野生型と差がなかった。一方、ジアシルグリセロールキナーゼζの高度過剰発現の系統では、予想に反して心肥大が生じていた。 以上から、圧負荷肥大心におけるジアシルグリセロールキナーゼの役割が明らかとなった。さらに、ジアシルグリセロールキナーゼはその発現レベルにより、異なる影響を心筋に与えることが示唆された。
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