東北大学大学院医学部倫理委員会承認の下、房室ブロックを伴う家族性心筋症家系5家系を同定し、3家系に新たなlamin A/C遺伝子(LMNA)変異を同定した。このLMNA変異の心筋症家系のうち多数の罹患者の情報の得られた家系で疾患形質の詳細な検討を行った。罹患者は平均39歳にて心電図異常を呈しており、その約6年後にはペースメーカー植え込み(PMI)を要し、PMIを受けた罹患者でもその半分は突然死、心室頻拍や心不全、脳梗塞などで平均59歳の年齢で死亡した。臨床電気生理学検査ならびに心筋生検・剖検心の組織学的検討では、著明な線維化に示される房室結節の組織破壊が先行し、その後著明なグリコーゲン蓄積に示される心室作業心筋障害へ進展するものと推定された。 LMNA変異の家族性心筋症の分子病理を明らかにすべくマウス心筋細胞モデルにて検討した。リアルタイム定量的RT-PCR法を用いてマウス新生児心筋組織おけるlamin A/C遺伝子(lmna)を含む核膜蛋白遺伝子の経時的変化を検討した。出生前よりlmna発現は認められ、出生後に遺伝子発現は増加した。一方lamin B1遺伝子発現は低下した。lamin A/C蛋白質発現は出生後から増加し、蛋白質発現の翻訳後調節が考えられた。前述の家系より同定したtruncated proteinを生じるexon 5内の変異をsite-directed mutagenesisを用いて、GFPを発現マーカーとして同時に組み込んだベクターを作成した。またlmna発現を特異的に抑制するsiRNAベクターも作成した。細胞周期から離脱後の最早期である出生14日後のマウス初代心筋細胞に対して変異lmnaならびにlmna特異的抑制siRNAを導入しその効果を検討した。Immunoblotting、免疫組織学的検討では変異lmnaならびにlmna特異的抑制siRNAとも正常lamin A/C蛋白質の発現レベル低下を認めた。最も特徴的な効果はリン酸化された網膜芽細胞腫蛋白(pRB)の発現低下とアポトーシス心筋細胞数の増加であった。
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