研究概要 |
本研究は、動脈硬化の危険因子の一つである高血圧が血管壁に与える物理的刺激に着目し、機械的伸展刺激による単球からマクロファージへの分化誘導因子を解析することを目的としている。多彩な血管細胞のなかでも、とりわけ単球の演じる役割は重要であり、血流中から血管壁に侵入した単球がマクロファージへと分化(活性化)する過程は動脈硬化病変の形成に不可欠である。このため、単球からマクロファージへの分化誘導を制御する転写因子は、動脈硬化に代表される血管疾患の治療や予防の標的として有効である可能性が高く、本研究の成果は新たな血管保護療法を開発する基盤になると考えた。 本年度は、機械的伸展刺激により単球から分化させたマクロファージに特異的に発現する遺伝子をスクリーニングした。ヒト単球のモデル細胞であるTHP-1細胞株(ヒト急性単球性白血病細胞株)を極薄シリコン膜上で培養し、付着させた後、培養ディッシュごと伸展刺激装置に載せて二次元方向の周期的な(1Hz)伸展刺激を細胞に与えた。刺激後のTHP-1細胞を回収し、RNAを抽出、遺伝子発現をスクリーニングした。結果として、THP-1細胞を伸展刺激すると、クラスAスカベンジャー受容体(SR-A)の遺伝子発現が誘導されることがわかった。SR-A遺伝子の誘導は強度依存性かつ時間依存性に増強した。また、THP-1細胞を伸展刺激することにより、クラスBスカベンジャー受容体の一種であるCD36の遺伝子発現も誘導されることがわかった。CD36遺伝子の誘導もやはり強度依存性かつ時間依存性に増強した。さらに、SR-AやCD36の遺伝子が誘導されると,それぞれに対応するタンパク合成も起こることがわかった。しかしながら、これらの遺伝子発現を調節している鍵となる転写因子の探索については、未だ結論を得るには至っておらず、引き続き検討中である。
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