平成16年度は骨格筋細胞を心筋細胞と共培養し、骨格筋細胞が心筋細胞の形質を獲得する機序について検討した。細胞が異なる系譜の細胞の形質を獲得する機序として、形質転換(transdifferentiation)と細胞融合が存在する。そこで、緑色蛍光蛋白(GFP)発現マウス由来骨格筋細胞とLacZ遺伝子を導入した心筋細胞を共培養し、GFP、β-galactocidase、心筋特異的トロポニンT(CTnT)の発現について検討した。その結果、GFP陽性、cTnT陽性細胞の70-80%はβ-galactocidase陽性、つまり細胞融合を起こしていたことが明らかになった。そこで、骨格筋以外の体性細胞も心筋細胞と細胞融合することにより、心筋細胞の形質を獲得、維持するかについて検討した。GFP陽性心筋細胞と赤色蛍光蛋白(RFP)陽性ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)またはRFP陽性心筋線維芽細胞を共培養すると、GFP陽性RFP陽性の融合細胞が認められ、cTnTを発現していた。融合細胞における心筋細胞の形質を持つ細胞の割合は時間依存性に増加したが、骨格筋、内皮、心筋線維芽細胞の形質を維持する細胞の割合は減少した。免疫抑制をしたGFPラットの心臓にRFP発現骨格筋細胞またはRFP発現HUVECを移植すると、1週間後にGFP陽性、RFP陽性でサルコメア構造を有する融合細胞が存在し、心筋特異的蛋白を発現していた。 次に、骨格筋の幹細胞の分画と考えられるside population(SP)細胞およびSca-1陽性細胞が心筋細胞へ分化可能か検討した。GFP発現マウスの骨格筋由来SP細胞またはSca-1陽性細胞を心筋細胞と共培養すると、細胞融合、形質転換両方の機序で心筋細胞の形質を獲得した。また、共培養した骨格筋幹細胞の中で心筋細胞の形質を獲得した細胞の割合は、骨格筋非幹細胞が心筋細胞の形質を獲得する割合よりも多かった。我々は骨格筋由来SP細胞またはSca-1陽性細胞を単独で心筋細胞に分化させることが可能か種々の成長因子について検討したが、心筋細胞には分化しなかった。
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