研究概要 |
心筋ミリオシンにおける軽鎖リン酸化の分子機能を検討する上で、ミオシン軽鎖アイソフォームの機能的差異を理解することは重要である。我々は重鎖が共通で軽鎖のみが異なる心筋ミオシンを用いて、ミオシン1分子当たりの発生張力をレーザートラップで計測し、軽鎖アイソフォームの機能的意義を検討した。ラットの心房筋と心室筋から精製したミオシンは重鎖が共通で、軽鎖のみが異なる。心室筋型軽鎖を持つミオシン分子(V)は、心房筋型軽鎖を持つミオシン(A)よりも、1分子当たりの平均発生張力が大きく、これはVミオシンの方がAミオシンよりもアクチンと結合して張力を発揮している持続時間が長いためであることが明らかとなった。このことは、より高い圧負荷に曝される心室筋の方が大きな張力を発生できるよう適応していると考えられる(Yamashita S, et al. Cardiovasc Res.2003)。 我々は、単離したラット心筋細胞の発生張力を、独自に開発したカーボンファイバーを用いて計測する手法を開発した(Yasuda S, et al. Am J Physiol.2003)。さらに、単短縮(twitch)中の心筋細胞長をフィードバック調節することにより、等長性収縮と細胞内Ca濃度を同時に計測する実験系を完成させ、低い負荷での自由収縮では、等長性収縮よりも最大細胞内Ca濃度が高いが、その持続時間が短いことを明らかにした(Yasuda S, et al. Am J Physiol.2003)。また、単収縮中の心筋細胞長を調節することにより、生理的な負荷条件下での単一心筋細胞の仕事量を計測し、単一心筋細胞の力・筋長関係は、心臓で得られた圧・容積関係に近似し、仕事量を負荷に応じて変化させる心臓の適応能力は、個々の心筋細胞の特性によることを証明した(Nishimura S et al. Am J Physiol.2004)。
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