研究課題
基盤研究(C)
われわれは以前、アンジオテンシンIIのラットへの持続投与が腎への著明な鉄沈着を誘導し、この現象が蛋白尿増加や腎における遺伝子発現調節作用を有することを報告した。平成15年度・平成16年度の検討は、この知見を元に、心血管における鉄動態異常の存在とその生理的意義を目標に研究がなされた。鉄動態異常という側面からみたアンジオテンシンIIの心血管系、および生体酸化ストレスに与える影響に関して得られた知見の概略は以下のとおりである。心臓に関して(1)アンジオテンシンIIの持続投与は心臓において、フェリチンの発現を亢進し、鉄沈着を誘導する。また、心臓の線維化を促進する。(2)この現象は鉄キレーターの投与で抑制される。鉄キレーターは動物の血行動態に影響を与えないが、生体および心臓局所での酸化ストレスレベルを軽減する。(3)アンジオテンシンII投与は心臓のマクロファージ、myofibroblast様細胞、冠動脈壁においてTGF-β1 mRNAの発現を著明に増加させる。(4)鉄キレーターはアンジオテンシンIIによる、心TGF-β1 mRNAの発現亢進を抑制する。大動脈に関して(5)アンジオテンシンIIの持続投与はラット大動脈におけるフェリチン、HO-1の発現を著明に亢進し、外膜への鉄の沈着を誘導する。(6)鉄キレーターは、アンジオテンシンIIによる血管壁フェリチンの発現亢進、MCP-1 mRNAの発現亢進を抑制する。また、障害された内皮依存性の血管弛緩反応を部分的だが改善する。(7)また、鉄キレーターは、アンジオテンシンIIによる、血管壁における過酸化脂質の増加を抑制する。以上のことから、アンジオテンシンIIによる鉄動態の異常は、心血管においても認められ、アンジオテンシンIIによる、形態的・機能的障害の原因、または増悪因子として働いている可能性が示唆される。
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