研究概要 |
本研究では核酸医薬を用いた血管疾患への新しい分子治療法の確立を目的としている。既に転写因子抑制療法である二重鎖核酸医薬(おとり型核酸医薬)デコイ療法の有用性について我々は報告してきたが、今回は特に複数の転写因子活性を同時に阻害できるキメラデコイを作成し、その有用性を検討した。 1)大動脈瘤に対する抑制効果 転写因子NFkB, etsを同時に抑制するキメラデコイを作成し、ラット大動脈瘤モデルにおけるキメラデコイによる大動脈瘤進展抑制効果は既に15年度に明らかにした。臨床応用を検討すべく行ったpre-clinical studyであるウサギ大動脈瘤モデルにおいても、NFkB, etsの上昇が病態に大きく関与していることが明らかになり、キメラデコイによるMMP産生抑制と炎症性細胞浸潤抑制による動脈瘤の進展抑制が確認できた。安全性について血液検査を施行したが、明らかな毒性・有害事象は確認できなかった。興味深いことに、post treat(動脈瘤進展後にデコイを導入)において、進展した動脈瘤の退縮効果を認め、NFkB抑制によるTNF-α阻害を介したエラスチン産生亢進などがそのメカニズムとして考えられた。大動脈瘤に対する低侵襲的な治療法の可能性を示唆した。さらに高血圧モデルにおいて動脈瘤がより進展し、高血圧が動脈瘤進展の危険因子であることを明らかにできた。同モデルにおいてもキメラデコイの有用性が確認できた。 2)再狭窄に対する有用性 ウサギグラフトモデルにおいて、圧負荷にて導入したキメラデコイは炎症性細胞浸潤を抑制し、グラフト後再狭窄を有意に抑制した。さらに、バイパス手術時の人工血管吻合部狭窄も臨床上問題であるが、血管平滑筋細胞増殖に関与する転写因子E2F、さらに炎症に関与する転写因子NFkBの両転写因子を同時に抑制するキメラデコイを作成し、吻合部位狭窄を予防しうることを動物実験において示した。
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