本研究では複数の転写因子を同時に制御可能なキメラデコイを新規に作成し、新しい分子治療法開発を目指した。 1)Chimera decoy(ets and NFkB)を使った大動脈瘤の治療の可能性 大動脈瘤の進展には血管壁の炎症、matrix metalloproteinases (MMP)の発現による弾性繊維の破壊が強く関与している。これらの現象に関与しているNFκBとets-1の2つの転写因子に注目し、これらを同時に阻害するキメラデコイを作成し家兎動脈瘤モデルで効果を検討した。キメラデコイ群で有意な動脈瘤の拡大予防効果を認めた。さらにキメラデコイ群はコントロール群に比べ用量依存性に動脈瘤を縮小させ、これは血管造影でも確認できた。キメラデコイ治療群はマクロファージの浸潤を抑え、弾性繊維の破壊を抑制していた。 2)Decoyを用いた内膜肥厚抑制 NFκBは炎症に関わる因子を制御する転写因子であるが、平滑筋細胞の増殖にも不可欠である。このことからNFκBの結合をブロックするNFκBデコイを導入することが内膜肥厚の予防に有効であると考え、コレステロール負荷家兎バイパス不全モデルで効果を検討した。ex-vivoでNFκBデコイを4週後の組織検査では有意な内膜肥厚の抑制、中膜の肥厚とI/M比の低下を認めた。 さらにNFκBと細胞増殖を制御する転写因子のE2Fとを同時に結合阻害するキメラデコイを用いた検討では静脈グラフトの吻合部狭窄を抑制することができた。NFκB結合阻害の効果としてマクロファージの浸潤抑制とPDGF-BBの発現低下があり、E2Fデコイの結合阻害効果として平滑筋細胞の増殖に関するPCNAの発現低下を確認した。これらの結果よりバイパス術の長期開存に有効な治療法と考えられる。
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