研究課題
基盤研究(C)
近年、心不全においては細胞内Ca^<2+>動態の異常が病態進行を悪化させる大きな原因であることが明らかとなった。心筋細胞内のCa^<2+>ホメオスターシスは、筋小胞体(SR)からのCa^<2+>イオンの出し入れによって制御されている。また、筋小胞体でのCa^<2+>の出し入れを制御するタンパク質の働きは蛋白リン酸化によって制御されている。心不全では、リン酸化された蛋白を脱リン酸化する酵素・蛋白ホスファターゼ1の活性が亢進し、筋小胞体蛋白の脱リン酸化、さらにCa^<2+>ホメオスターシスの異常を惹起しているとの報告がなされている。本研究は、不全心筋細胞で上昇している蛋白ホスファターゼ1活性(PP1)を抑制すると遺伝性心筋症・心不全の進行が抑制できるかどうかを検討した基礎研究である。心筋症ハムスター心不全モデルにアデノウイルス、アデノ随伴ウイルスベクターを用いた高効率心筋遺伝子導入法を用いて内因性PP1阻害蛋白Inhibitor-2を発現させ、その生理的効果・心不全進行に及ぼす影響について検討した。心筋症ハムスターでは心不全を発症する週齢においてSR・ミクロソームでのPP1 catalytic subunitの蛋白発現の亢進がみられた。一方、PP1内因性阻害蛋白であるInhibito-r2(I-2)の発現に変化がないことから、PP1Cの内因性阻害蛋白に対する相対的な蛋白量の増加がPP1活性上昇のメカニズムであると考えられた。I-2は、心筋細胞においては、筋小胞体を含む分画であるマイクロソームでのみ蛋白発現が確認できる内因性PP1特異的阻害蛋白であった。すでに心機能が低下し、心不全症状が発現している14週齢の心筋症ハムスターに対し、高効率心筋遺伝子導入でI-2を遺伝子導入した。アデノウイルスI-2導入群では遺伝子導入前に比べ、遺伝子導入1週間後、明らかに左心室内径が縮小し、%FS(左室内径短縮率)は改善した。I-2の遺伝子導入はSRマイクロソーム分画における蛋白ホスファターゼ1阻害にのみ有効で、細胞内の他の部分のPP1活性は抑制しなかった。さらにアデノ随伴ウイルス遺伝子導入を用いたI-2遺伝子導入群では、3ヶ月間の生命予後も改善した。以上のことから、膜分画におけるPP1阻害は心不全治療の有望なターゲットであることが示唆された。(Yamada et al.投稿中)。心不全におけるCa2+制御異常に関してreviewを執筆した。(Yano, Ikeda, and Matsuzaki J Clin Invest 2005).心不全に対する遺伝子治療の開発に関してreviewを執筆した(複数)。
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J Clin Invest. 115
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Molecular Mechanism in Heart Disease (edited by Mizukami, Ohkusa)(Research Signpost) (in print)